なんとなく流れで大学院に入って研究をすすめたり、あるいは、研究生として、働きながら夜間や研究日をもらって研究する人も多いと思います。
中には、最先端の技術を持っているグループでは、短期間に研究成果を出すことができる場合もあります。
でも、最近は、基礎研究は、数年かかってそれなりの雑誌に論文が1本通ればいいほうという場合が多いのが実情です。
ここでは、
基礎研究を初めたばかり、またはこれから大学院生活を送る予定のあなたに
大学院生活を順調に4年で終わらせるコツについてご紹介します。
大学院に行って学位を取らずに卒業するのはなんだか忍びないですよね。
どうせ基礎研究するなら、たくさんの仲間がいて楽しむのも大切ですが、きちんと結果を出して博士になりたいですよね。
できるだけスムーズに大学院生活で結果を出す方法についてこの記事でご紹介します。

大学院生活で学位をとるまで
以前から私自身や周囲の人を見てきて、スムーズに学位をとるということはとても重要だと思っています。
なぜなら、例えば4年間の大学院生活。
長いように感じるかもしれませんが、この間に
- 研究テーマについて知識を1から蓄える
- 基礎研究の基本と手技を学ぶ
- 手技の安定化
- 実際に自分の研究を進めていくが、結果がでる保証はない。でなければ他のテーマを探す
- 研究テーマの結果が出ると、抑え・詰めの研究を加えて、得られた結果が正しいかを示す研究結果を加える
- 論文を(英語で)書く
- 投稿して査読をうける
- 査読で指摘された内容について、研究を加えて、論文を修正する
- 再度査読を受ける
- アクセプトされ掲載!
の過程をたどります。
たくさんのステップがありますよね。
ここを踏まえた上で、研究を進めていく必要があると思っています。
ということで、4年という大学院生活にこの過程を終わらせるというのは、普通に行けばできることだと思います。

【重要!】優れた指導者を見つける

特に生涯の指導者を探すのはとても大切だと思っていますが、ここでは、あくまでも、大学院生活を無事に学位をとって卒業するという視点での指導者です。
ところで、どんな指導者がいいのでしょうか?
有名な教授でしょうか?
必ずしも教授が直接指導することはありませんし、そのもとで働いている人かもしれません。
いずれにしても、自分が学位をとるために指導してくれる人が、大学院生が学位を取得するのに配慮していることは重要でしょう。
過去の指導歴:指導をうけた人が結果を出せていますか?
重要なポイントとしては、

過去にその指導者から「直接」指導を受けて、学位をとって無事に卒業した人が多いか。
逆に、学位を取らずに大学院生活を終えてしまった人が多くないか。
これはとても重要です。もし、学位を取らずに大学院生活を終えてしまった人が多かったら、自分も同じようにならないためにも、気を引き締めて取り組まなければなりません。
場合によっては、指導してくれる更に他の人を探すというのもいいかもしれません。

そんな指導者は、指導者自ら基礎研究をしても結果が得られて論文化できるものを、大学院生にあえてテーマとして与えているように思っています。
また、自分なりの研究をすすめる型を持っていて、少し話題を変えながらその型を利用していくというパターンをとることが多いです。
この型にはまった結果を出していくというのがおすすめです。
基礎研究の実際の流れ
研究グループで取り組んでいる内容について基礎知識を蓄えるとともに、自分のテーマを与えてもらう(あるいは探す)
研究するときに、その分野では最先端の場にいる必要があります。
何がわかっていて、何がわかっていないか、そのわかっていないことを、自分たちの研究グループの技術ではっきりさせることができるかを知る必要があります。
これは根本的でとても重要。
これからどの方向に進んでいくかを決めるからです。

自分が興味があるテーマが決まっていればそれでいいと思いますが、その場合にはそのテーマをきちんと研究することができるか、研究する体制が整っているかを指導者に聞いてみてください。
壮大な研究テーマだと、大学院生活の間にそのテーマを解決するのは難しい事が多いです。
上に述べたように大学院生活は長いようで短いからです。
その間に一つの結果を出すことができるか(=博士号をとることができるか)を指導者に相談しましょう。
基本的な手技を安定させる
初めて取り組む手技がほとんどです。
ちょっとした手技の違いで、結果が全く出なかったり、あるいは、日によって得られる結果が違うことがあります。

これは、trial and errorで、繰り返し!行うことで、どうやったら失敗して、どうやったらうまくいくかがわかってきます。
ときには、同僚や指導者に聞いてみたり、周囲の人の手技を見たりするといいかもしれません。
それに、指導者がやってうまくいくことを自分もやってみて、それでできなければ何か原因があるはずです。
指導者が実際に行ったことがない手技・手法に取り組むと、途方に暮れることになりますので要注意です。
このtrial and errorの過程での経験は、1年後に後輩が大学院生活に入ったときに、教えてあげるというときにとても役に立ちますよ!
逆に、1年先輩がいれば、いろいろと聞くと、本当に意義のあるコツを教えてもらえるかもしれません。
実際に自分の研究を進める
未知の領域なら、結果が出ないこともあります。
でも、上で説明したように、指導者が勝ちパターンを持っていれば、ここでうまくいくことが多くなります。
また、何も結果が出なかったとしても、それはそれで、論文になったりします。

もし結果が出なければ、他のテーマを考えます。
この段階で、ひとつ上の基本的な手技が安定していなければ、結果が出なかったのか、あるいは手技が悪かっただけなのかわからなくなるため、基本的な手技が安定しているかは繰り返しますがとても大切です。
勝ちパターンを持った指導者というのはとても重要ですね。
研究テーマのメインの結果が出ると、抑え・詰めの研究を加えて、得られた結果が正しいかを示す研究結果を加える
ここを行わないと、得られた結果が本当に正しいかどうかわかりません。

面白い、大切な結果を出したとしても、「それはただ○○だったからじゃない?」と偶然そうなった、あるいはたまたまそうなっただけと受け止められないよう、しっかりとこの段階を行うことが大切です。
後日論文を投稿してから、査読者に指摘を受けてここを修正しようとすると、二度手間です。
また、抑えの研究ができないなら、そもそもそのメインの結果自体が怪しいと思われてしまうかもしれません。
論文を書く
基本的に英語で記載します。
これも、初めて論文を英語で書くときには四苦八苦で、論文ならではの言い回しを使ったほうがいいです。
これにも、相応に時間がかかります。

勝ちパターンを持っている指導者の論文をいくつか集めて見比べると、論文を書く型があります。
それは、文章の作り方であったり、考察のときの説明の流れであったりです。
例えば、考察のところで、
最初にこの研究で得られた結果を書く。
新規性を強調する。
過去の報告を見てみると~。私達の結果はこれと一緒です!
機序は~。
この研究成果を一般化するためには、〇〇が足りません。
結論として、~。
といった流れです。
奇をてらった英語の文章を書かずに、オーソドックスな優しい英語で書くのがおすすめです。
何事も型にはまった英語の文章を書くことができることが初心者の目標です。
ネイティブの人が、初心者からみると型破りの英文を書くことがありますが、それはあくまでもネイティブだからと割り切って、教科書的な文章を書いたほうが、違和感がないと思います。

投稿して査読をうける
英文を書いたら指導者に見てもらって、修正。これを繰り返して、間違いやそつのない英語にします。
その後に英文校正を業者に依頼。
その後に、指導者と相談して、投稿する雑誌を決めて投稿。
ここで、すぐに却下(リジェクト)を受けると、他の雑誌を探します。
アクセプトしてくれる雑誌ならどれでもいいと個人的には思っていますが、多くの人の目に止まりやすい有名な雑誌が理想ですね。
あくまでも、質が保たれている雑誌に投稿するというのが基本です。
そして、研究を追加したり、考察を加えてみてくださいという査読結果が帰ってきたら、チャンスです。
査読する人は通常2~3人で、査読結果を見てエディターが、投稿した人に返事を出しますが、エディターの意向はとても大切。
査読で指摘された内容について、研究を加えて、論文を修正する
この段階では、査読者が指摘した項目について、積極的に修正したり、研究成果をしっかりと加えることが大切。

査読者が好意をもってくれれば、査読者もアクセプトの返事を出しやすいです。
これは、指導者に相談して、返事の仕方を考えたほうがいいところです。
私は、過去に1度だけ査読者と戦ったことはあります。
そんな無理なことを求めるんだったら、投稿は取り下げて他の雑誌に投稿します!
という返事をしたことはありますが、そのときにはエディターの判断で、アクセプトしてもらいました。
でも、こんなことはまれでしょう。
上にも書きましたが、エディターの意向はとても大切です。
たとえ査読者がダメといっても、エディターがOKと判断すれば、最終的にはアクセプトされますから。
再度査読を受ける
再度研究を追加するように指摘されることもあります。
アクセプトされ掲載!
掲載されるのに、実際は数ヶ月(半年や長いものなら1年近くかかることもあります)かかります。
学位審査はアクセプトされれば受けることができる場合が多いと思いますので、アクセプトされた段階で学位審査を受けることができると思います。
学位が取れないパターン
9時5時で時間通りに研究しに来て、帰ってしまう
指導者が納得していればいいのですが、そうでなければ、指導者の協力も少なくなるでしょう。
結果を出していれば、問題ないと個人的には思っていますが。
ただし、あまり経験や知識が乏しいと、学位審査のときの質疑応答で答えられず、再審査になることもあるようです。
研究が趣味的になってしまう
研究成果のうち、メインの結果がでますが、その抑えの研究をしない場合。
次々に、「それなら、これはどうかな?」とメインの結果ばかり次から次に追ってしまうと、結果は出るけれども、論文化する段階で査読を受けると、たくさん査読を受けてしまうことになります。
つまり、査読者から突っ込まれるスキがたくさんでてきます。

ほったらかしの指導者
「大学院生が自分でアイディアを出して結果を出すべき」
「どんな結果が出るかわからない研究をすべき」
と考える指導者もいます。
確かに、ガチガチに基礎研究するところに行けば、このパターンが増えてきます。
大学院生活という4年間は研究に没頭するのにはいい機会とも言えます。
もちろん、そんなところで研究すれば、有名な雑誌に掲載されることも多いです。
それに、博士号を取得するということは、自分で研究をすることができるという段階に達していることが通常は必要です。
反対に、そのためにはかなりの労力を使います。
「有名な雑誌に掲載されるためなら、夜中まで研究を続けます!」の意気込みがある方は、こちらの選択肢を選ぶのがいいですよ。
でも、中には身体的・精神的に疲れ果てて去っていく人もいるのが実情です。

その他には、指導者が昔の技術しか知らないとき。
指導者がアイディアを出すことができても、それをどんな方法を使って研究して、論文化するかの道筋がないとき。
例えば、ウェスタンブロットについては昔からある方法ですが、昔と今では使う器具やキットも異なります。
使うものが異なれば、昔の経験が役に立たないことも多いでしょう。
研究がうまく行かないときに、どこが間違っているのか相談しても、なかなか原因を突き止めるような回答をしてくれないことになります。
そんなときには、自分で突き止めるか、周囲の人(少し上の学年)に聞きまくるしかありません。
ただし、これが長く続くと、その研究グループはだんだん衰退していく可能性は高いと思います。
これを乗り切る人が時々いますが、あくまでも優秀な人の事が多いです。
さいごに
何事も初めてのことをすることは、億劫ですが、周囲の人ができているなら、自分もできるはずです。
大学院生が次々に学位をとって卒業しているような指導者を見つけることが大切です。
そんな指導者は研究の「勝ちパターン」を持っています。
そんな指導者に指導してもらうと、効率よく学位をとって大学院生活を終えることができます。
大学院生活は、仲間ができて、楽しいですよ。
どうせ大学院生活をするなら、楽しみながら、効率よく結果を出して、卒業したいですよね。
